音楽はそれなりに聴くほうだけど、音楽を聴いて感動したことなんてなかった。

元々、なにかに感動することなんて滅多にないのだ。

音楽に対しても、ただ歌詞とリズムのついた音が流れているだけ、かぎりなく有り余る時間を潰すための材料としか思っていなかったけれど。



「ルーカスくんの演奏を聴いて、音楽に対する考え方が少し変わった気がする」


ありがとう、と。

そうお礼を言った瞬間、わたしははっと我に返った。


1訊かれただけなのに、10も喋ってしまった。



「ごめん、一方的にいろいろ語っちゃっ──」


わたしの言葉を遮ったのは、右頬に寄せられた感触だった。

それは一瞬だったけれど、たしかな形でわたしの肌に残っていた。



「…………えっ?」


途端、頭が真っ白になる。



「え、?」


何が起こったのかわからない。


状況把握ができないまま、頬を押さえたわたしの手に彼の手が重なった。

びくん、と跳ねる肩。ほお、と隣からは面白がる声。




「────……」


耳に寄せられた唇から囁かれたのは流暢な英語だった。

英語が苦手なわたしでも、なんとなくでわかるほど。

それはあまりにも甘い言葉で。