「ええと……その、邪魔してごめん、なさい」
正直に頭を下げる。
充分に時間を取ってからルーカスくんの様子を伺うけれど、彼はいつものごとく無表情で、何を考えているのかわからなかった。
怒ってる、のかな。
「……てっきり先生が弾いているのかと……もっと聴きたくて、つい……ごめんなさい」
「俺がピアノを好きでいるのは可笑しいと思うか?」
「えっ!?そんなことない!ごめん、わたしがなにか勘違いさせたのなら、それは誤解なの。ルーカスくんがピアノを弾いてるのも、好きでいるのも、ちっとも可笑しくないよ」
たしかに彼がピアノを弾けることには驚いたけれど。
可笑しいとは一瞬も思わなかった。
「すごいと思った。繊細で、儚くて、美しくて、だけど激しくて。あれは、そう────そうだ、まるで人の心みたいだった」
するとノアが茶々を入れてくる。
「ふうん。人の心、ねえ」
「なによ。本当にそう思ったんだもん」



