あの日は、うだるほどに暑い夏だった。

地面で揺らめく蜃気楼、近づいてくる鉄の塊。


目を閉じる。

いまでも鮮明に浮かぶ。

一瞬ですべてが奪われた、あの夏の日。





「わたしの親ね、アンドロイドに殺されたんだ」



言葉にすると案外あっけなく、どこか軽妙にすら聞こえた。


アンドロイドに殺された。

水で火傷したというのと同じくらいの矛盾を感じる。


ちなみに、このことを自分から親戚以外の第三者に話したのは初めてだった。

もちろんアンドロイドにも。



「……それは──」

「ありえない、って思うでしょ?」


ロボット工学の三大原則の第一条にある『ロボットは人間に危害を加えてはならない』。


これはすべてのアンドロイドにプログラムされている。

さらに言うと三大原則の中でもっとも優先度が高い。

それくらい、人間とアンドロイドが同じ社会で生活する上で必要な条件なのだ。



「だけど、本当なの。わたしのお父さんとお母さんはアンドロイドに殺された。それは間違いない」


だって、とわたしは続ける。



「だって、わたしがこの目で見たんだから」


この目で見て、そして、わたしだけが助かった。

助かってしまった。


お父さんもお母さんも仕事人間だったけれど、わたしはふたりが好きだった。

家族で過ごす時間が好きだったんだ。

あの頃はたしかに、幸せだったと思う。


お父さんとお母さんがいなくなったいま、わたしのほんとうのさいわいが叶うことはないだろう。