たしか今週中には提出しないといけないんだったっけ。
こんなの適当に書いて出せばいいんだろうけれど、せっかくちゃんと視聴したのにもったいないという気持ちがあった。
それなのに、これだ、という答えが未だに浮かばず、かといって気軽に相談する友人もおらず、悩んでいるところだった。
「ノアはほんとうのさいわいってなんだと思う?」
「あまりはなにがほんとうのさいわいだと思った?」
「質問に質問で返してきた」
わたしだって全く調べていないわけじゃない。
授業で取り扱った映画や小説だけでなく、図書室で宮沢賢治に関する文献をかるく漁ってみたりもした。
「……世界平和とか」
「じゃあそうやって書けばいいじゃねえか」
「そう思ったんだけど、なんだか納得できなくて。例えば、世界中から差別も貧困も戦争もなくなって、それで全人類が幸せに生きられる世の中になったら。たしかにそれはほんとうのさいわいだと言えるかもしれない。だけど、わたし……それはちょっと違うと思うの」
「お前自身の考えじゃなくて、求められてんのは賢治の考えだろ」
ぐう、と言葉につまる。
たしかにノアのいうとおりだ。
あくまでも求められているのは宮沢賢治の“ほんとうのさいわい”に対する答えであって、わたし個人の考えではない。
でも、でもなぁ。なんだか納得いかないんだよなぁ。
なんてぶつぶつ言っていたら、ノアが夜空を見上げながらぽつりとこう言った。
「……『世界ぜんたいが幸福にならないうちは個人の幸福はありえない』」



