「ええと、音楽室が気になる?」
この時間帯なら誰もいないし少し覗いてもいけるかな。
そういったことを考えていると、ふいに横から視線を感じて。
顔をあげると、成瀬くんの視線が絡んでくる。
唐突な眼力に思わずビビりかけたけれど、思っていたよりも自分が動揺していないことに気付いた。
きっとうちにも似たようなのがいるからだろう。
強面に耐性がついたんだ。いやなにも嬉しくない。
わたしがなにかを言う前に、成瀬くんのほうから背を向けて。そのまま長い足で廊下を反対方向に進んでいく。
「あ、成瀬くん」
「もうほっとけよ」
「でも、まだ案内が」
「んなもん、見たけりゃ勝手に見てまわらぁ」
「そうかな……」
彼が去っていった方角を未練がましく見つめてしまう。
結局、ひとことも話してくれなかったな。
わたしは人に嫌われる才能でもあるのだろうか。
「それより俺たちも新作フラペチーノ飲みにいこうぜ」
「ええ……いまって苺だっけ」
「メロンだよ、メロン。おら行くぞ!」
「えーわたしメロン食べると喉がイガイガって……ちょ、引っぱらないでってば!」
最後にもう一度、後ろを振りかえってみた。
だけどそこに成瀬くんの姿はなく。
どこかの教室で吹奏楽部が練習しているんだろう、重厚で少しズレた音色が風に乗って運ばれてくるだけだった。



