「次は……音楽室だね。成瀬くんは音楽、好き?」
わたしもわざわざ訊かなきゃいいのに。
そう思いながらも言葉が口をついて出る。
ナナちゃんたちといたときの、人の機嫌を取ろうとする癖が抜けきっていないのか。
ただ単純に誰かとこんなに話す(一方的に)のがひさしぶりで、体が会話を求めているのか。
「わたしは音楽聴くの好き。眠れないときとか……あ、わたし不眠症なんだけど、最近よくクラシックとか流してるよ」
言ったあとにしまったと後悔した。
不眠症だってことは言わなくてもよかったな。
少なくとも初対面の相手に打ち明けることではなかった。
人と関わるのが久しぶりだったらこうも距離感が掴めなくなるのか。
アンドロイドと話してばかりでいると人と話せなくなるアンドロイドコミュ障ってほんとだったんだ。
「おい」
「ん、なに?ノア」
「後ろ」
「後ろ?」
振りかえると、音楽室の前で成瀬くんが歩みを止めていた。
閉まっているドアの先に敵でもいるようにじっと凝視している。
学校案内を始めて初めて、それらしい反応を見せてくれた。
「成瀬くん、どうしたの?」
もちろん返事はない。
とっさにノアを見上げるけれど、さあな、というジェスチャーをされるだけだった。



