ブルー・ロマン・アイロニー



「……で、ここが図書室。成瀬くんは本とか読む?」


成瀬くんは興味なさそうに図書室のプレートを見上げている。

もちろん質問に対する答えは返ってこない。

もうノアに任せてしまおうかと思った。


成瀬くん全然しゃべってくれない。

わたしのことが嫌いなのかもしれない。

さすがに自己肯定感が低すぎ?

ううん、いつもならわたしだって、さすがにここまで自己評価が低いわけじゃない。

だって、成瀬くんがこうして無視しているのは、わたしだけなのだから。


さっきだって、教室を出るまで、成瀬くんはみんなからの質問に答えていた。

言葉数は少ないものの、無視なんてしていなかった。



『成瀬くんのLってどういう意味なの?』『……さあ』『ルーカスくんって呼んでいい?』『お好きにどうぞ』『ネバダ州ってどんなとこ?』『アメリカの西部にある』『成瀬、タッパすげえな。バスケとか興味ない?』『ない』『ねえね、成瀬くん。新作フラペチーノとか飲みたくない?』『ない』


言葉数は少ないしちょっと無愛想ではあったものの、ちゃんと会話が成り立っていた。

なのに、わたしだけ、無視。

たまに隣から視線を感じるから、わたしの存在は認知されているんだろうけれど。


もしかしてわたし今日、声出てない?

そう思ってノアに確認したら、出てる出てる、と言われた。よかった。

いやなにもよくない。