「まあ俺ぁアシモフの定めに則っただけだ」

「それってロボット工学の三原則のこと?」

「厳密にいうと、三原則ではねえな。アシモフはのちにゼロ番目の原則を加えたんだよ」

「ゼロ番目?」


小さい頃から教科書にも載っていたアシモフのロボット三原則。

ゼロ番目の原則なんて、そんなものはなかったはずだ。

わたしは頭の中で、原則をひとつひとつ思い並べていく。



第一条ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を加えてはならない。

第二条ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。

第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。



最後まで思い浮かべたとき、見計らったようにアンドロイドが口をひらいた。



「ロボットは人間性を傷つけてはならない。また、人間性が傷つくことを看過してはならない。……これを知ってるのはアンドロイドと一部の人間だけだ。ほとんどの人間は何も知らずに過ごしてる」


つまり、とアンドロイドは付け加える。



「ゼロ番目の原則は他の原則よりも優先度が低い。だが、あのままだとお前の人間性が傷つけられると判断した。だから俺は“あんなこと”を言ったに過ぎねえんだよ」