「好き⁉ いや、顔は確かに好みど真ん中だけど、だからってそう簡単に好きにはならないよ⁉ 私村城くんのことそこまで良く知らないし!」

 好きという言葉に気が動転して余計なことも言ってしまったかも知れない。

 でも、私の言葉を聞いた村城くんは表情を優し気なものに変えた。


「うん、伊千佳さんってそういう子だよね……だから俺は……」
「え?」

 最後の方が良く聞こえなくて聞き返したけれど、もう一度言ってはくれなくて笑顔だけが返ってくる。

 その笑顔に少し意地悪な色を加えた村城くんは、そのままの顔で私に近付いてきた。


「……そういえば今さ、俺の顔が好みど真ん中だって言ったよね?」
「え? あ……」

 そうだよ、それも口走ってた。


 告白してきた相手に、好きになれるかも分からない状態でそういうこと言うのってどうなんだろう。
 思わせぶりな感じになっちゃったかな?

 と、少し冷静になった頭で考える。

 でも、その冷静さはすぐに消えてしまった。


「そんな顔に迫られたら、ドキドキしちゃう?」
「あ、あの……近くない?」

 私のパーソナルスペースより内側に入られて、思わず後退りする。
 でも村城くんはそのまま近付いて来るから、最終的に私は廊下の壁に追い詰められてしまった。

 村城くんは私の頭の上に肘をついて、覆いかぶさるように逃げ道を無くす。