清蔵は口に含みかけていた煮物を詰まらせそうになったが、清士と春子ならきっと似合いの夫婦だろうとも考えた。
 「冗談だよ、あんなのが嫁に来ては清士君にも申し訳ない」
 克太郎は猪口いっぱいの酒をクイっと飲み干す。
 実際、春子は克太郎の言うように幼い頃からおきゃんな娘であった。
 しかし唯一、その影も見せないような令嬢となる時があった。成田家と食事をするときである。
 克太郎と清蔵が長年の友人であることから、松原家と成田家は年に一回は共に食事をしている。場所はホテルのレストランであったり、どちらかの家であったりさまざまだ。
 一台の大きなテーブルを前に、談合を交わす。克太郎と清蔵は友人として、夫として、父として、そして時には軍人と実業家として。克太郎の妻文世(ふみよ)と清蔵の妻ひろのも妻として、母として。そして松原家の兄妹と成田家の兄弟も幼少の頃からこうして会う機会があったために兄妹のような関わりである。
 松原家の長男である勇が四人の子供たちの中では年長者である。次いで、成田家の長男清士(きよし)、次男清義(きよのり)、松原家の長女春子という順であり、それぞれが一歳違いである。末であり唯一の女子であったことから、春子は清士と清義のことも「兄さん」と呼んでおり、彼らも春子を妹のように可愛がっていた。
 春子は尋常小学校(じんじょうしょうがっこう)の頃から、普段家で見せるような御転婆な様子が消え去ったかのように可愛らしく、そして大人しく振る舞うようになった。女学校の最終学年となった昨年の食事会でも、まるで別人かと思われるほどに見違えたのである。