「私を利用し、殺しかけ、また伊坂の名を軽んじるなど……貴方という人がどのようなかたなのか、益々分からなくなりました。貴方は私についての情報を握っていると仰いますが、私は貴方について、長津さんというかたについて、何も存じ上げないのです」
 怒りと悲しみの混ざった声は長津の耳には入っていないようである。
 「あれもまた私の仕事です。全ては我々帝国海軍のため、そしてこの国のため。与えられた任務を遂行した迄です」
 少女の白い頬に涙が伝う。
 これまで目にしなかった長津の新たな一面に恐怖し、また、道端で聞いてしまったさまざまなことについて尋ねようとしていたにもかかわらず、それができないことのもどかしさに涙していた。
 「……怖いです。普段はあんなに優しくして下すって、私を危険から守ろうとして下さるのに、昨日は……どう表現しましょうか、冷淡で……」
 (優しさではなく特務を丁寧にこなしているに過ぎないというのに、しかし)
 冷淡──はじめ長津には彼女の示唆することが理解できなかったが、幸枝との仕事をしているときの自らの姿を思い返して気がついた。
 「あれが私の本性、いや、帝国海軍の軍人としての私です。私もあのように教育されてきました。スマートで、目先が利いて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り──海軍の人間として当然のことです。決して冷淡で居るつもりではなく、冷静に任務をこなしているのです」
 軍隊は厳しい場所であり、それは既知の事実である。
 「……教練の際もあのようになさるのですか」
 長津はやや無縁な言葉に、喉元で言葉の止まったような感覚に陥った。