8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3


 例えば、自分だけをみてくれる聖獣がいたとしたら。
 そんなことを、何度も考えた。自分を一番だと言ってくれる人がいたら、少しは自信が持てるんじゃないかと。
 それをチャドに期待したけれど、でもやっぱり違う。
 彼が望むことを叶えてあげたかった。でも、だからと言って、何でも言うことを聞いてやるのは違うし、それで大事な人を傷つけてしまったことがショックだ。

「……っ」

 建物が崩れ落ちる瞬間を思い出して、また体が震えてくる。
 ドルフもフィオナも、あれはなかったことになったと言う。でも本当にそうだろうか。自分がまた選択を間違えれば、同じことは何度でも起こるのではないだろうか。

(僕が間違わない保証なんてない。怖い。……怖いよ)

 震えが止まらない。早く元気にならなければ、フィオナを心配させてしまうことは分かっていたが、それでも感情のコントロールができなかった。

(僕は、……どうすればいいんだろう)

 ノックの音がして、返事をする前に扉が開く。
 入って来た人物を見て、オリバーは目を疑った。それは、ベンソン伯爵の領地にいるはずのオスニエルだったのだ。

 脳裏で建物が崩れる。想像したのは、父の倒れた姿だ。オリバーの頭の中の映像と、今のオスニエルが交錯する。

「オリバー、大丈夫か?」
「ち、ち、……うえ?」

(……生きてる)

 頭では、わかっているつもりだった。大地震はなかったことになった。だからオスニエルも無事であると。
 でも、オリバーはそれがようやく今、実感を伴って理解したのだ。

「ご、御無事だったのですか?」
「もちろん。とはいえ、本当に戻ってきたわけではないんだ。ドルフが時を止め、俺を連れに来てくれた」
「え……?」

 言われて周囲を見れば、時計も動いていない。外の景色も風が吹いていることすら感じられなかった。

「お前が大変だと聞いた。だから来たんだ」

 父は王だ。国のために尽くさねばならず、それをオリバーが邪魔するようなことはあってはならない。

「僕のせいですか? 父上のお手を煩わせて……」

 オリバーが頭を下げようとすると、肩を掴まれ止められた。

「俺はお前たちの父親だ。煩わせるなんて言い方はするな」
「でも……」

 オスニエルはベッドの端に腰掛けると、優しい声で語りだした。