その時、突然空気が固まった。フィオナと結婚してから、何度も体験しているそれは、ドルフが時を止める時の感覚だ。
「ドルフか」
『正解だ。オスニエル。悪いが一緒に来てくれ』
銀色の光をまとって現れたドルフは、いつもよりも元気がないようだ。
「どうした? フィオナに何かあったのか?」
慣れているから、オスニエルは状況把握も早い。ドルフも多くを説明せず、背中を向けた。
『オリバーが一番まずい。でもオリバーが不調なせいでフィオナもアイラもやられてきている』
「オリバー……? ……いったいどういうことだ」
『フィオナが助けてほしいと言っている。仕事中なのに申し訳ないが……とな』
フィオナの言いそうなことだ。オスニエルは肩をすくめて笑う。
「家族より大切なものもあるまい。いいだろう、行こう。時は止めたままにするのか? そうでなければ、多方面に連絡しておかねばならない」
『止めたままにする。あまり長いと体力を使うが、オリバーのためだ』
「ならばさっさと行こう」
こうして、オスニエルはドルフの背に乗って、後宮へと向かった。
後宮の中庭で、フィオナが不安げに空を見上げていた。久方ぶりに妻に会う高揚と、その危うげな表情に不安も感じる。
「フィオナ、大丈夫か」
「……オスニエル様!」
彼女はオスニエルが降り立つなり、その瞳を潤ませた。オスニエルはその頭を掴んで抱き込む。
「不在中、大変だったらしいな。よく呼んでくれた」
「いいえ。ごめんなさい。不在中は私がしっかりしなければいけませんのに」
「頼りにされないより、ずっとうれしいものだ。気にするな」
フィオナは少し黙ったまま、オスニエルの胸に頭をすり寄せた。
「……会いたかったです」
王妃として、子供たちの母として、フィオナがどれだけ気を張っているのかを、こんな時に思い知る。
「ああ。俺もだ」
抱きしめ返せば、フィオナはすぐに自分を取り戻した。
「実は、オリバーが聖獣を拾って来たらしいのです。そして彼の言うままに力を使って……ベンソン伯爵の領地で大地震を起こしてしまったそうです」
「ベンソン伯爵領なら俺もいたぞ? 滞在中は大きな地震はなかったが」
『お前は何もなかったと思っているだろうが、そこでお前は一度、死んでいるはずなんだ。オリバーの力のせいでな。俺が時間を戻しただけだ』



