* * *
オリバーがその状態になってから、三日が過ぎた。
オリバーは時折体を起こし、スープといった咀嚼のいらないものならば口にしたが、後は寝てばかりだ。
夢の中では相変わらず、大地震の光景が繰り返されているらしく、寝言で何度もオスニエルを呼んでいる。
フィオナはただ茫然と横になっているだけのオリバーに、必死に話しかけた。
「オリバー、話はドルフから聞いたわ。もう大丈夫なのよ、ドルフが時を戻してくれたのだから。あなたがしたことで傷ついた人は誰もいない」
「……でも、僕のせいで、父上が死んだかもしれないんだ」
災害が起きたときの衝撃が、オリバーの中からは抜けていない。
「そうね。判断が甘かったのは認めるわ。でもそれは私もそう。あなたひとりのせいじゃないの」
「でも……」
繰り返し、何度でもフィオナは言う。
「誰も死んでいないわ。ドルフがチャンスをくれたのよ。私たちは失敗をやり直せるの。もう二度とこんなことが起きないように、一緒に考えていきましょう?」
「僕は、……もしまた、あんなことをしてしまったら」
フィオナのどんな言葉も、今のオリバーには届かない。
(母親なのに、……無力だわ)
フィオナはこの間つきっきりだ。言葉が届かぬもどかしさに、疲労を感じ始めていた。
「フィオナ様も少し休みませんと」
「シンディ……でも」
シンディの後ろから、子犬姿のドルフがやってくる。
「キャン」
「ドルフ」
「ほら、ドルフも同じように思っていますわ。少し中庭をお散歩して気分転換してくださいませ」
シンディに背中を押され追い立てられ、フィオナはひとまず外に出た。
いつも目を楽しませてくれる新緑の緑も花の色も、オリバーがあの状態だというだけで色あせて見える。
「ドルフ」
『なんだ』
「個人的なわがままだと承知しているけれど、お願いがあるの。時を止めて、オスニエル様を連れてきてくれないかしら」
『オスニエルをか?』
「あの子。自分がオスニエル様を殺してしまったと思い込んでいるのよ。姿を見ないとどんな声も届かないような気がするわ。王の子としては、お戻りをお待ちするのが正しいとはわかっているけれど」
半泣きのフィオナの耳に、キンと空気の固まる音がして、銀色の光をまとった狼が現れる。
『あいつだってオリバーの親だ。現状を知れば、あっちの方から頼んでくる』
「ドルフ」
『そんな顔するな。腹の子の健康に悪い』
フィオナの頬をぺろりと舐めると、ドルフは空に浮いた。
『本当ならば、お前を乗せて言ってやりたいが、大事な時期だ。部屋で待っていろ』
「ありがとう、ドルフ」
飛び立っていくドルフを、フィオナは感謝の気持ちを込めて見つめた。
オリバーがその状態になってから、三日が過ぎた。
オリバーは時折体を起こし、スープといった咀嚼のいらないものならば口にしたが、後は寝てばかりだ。
夢の中では相変わらず、大地震の光景が繰り返されているらしく、寝言で何度もオスニエルを呼んでいる。
フィオナはただ茫然と横になっているだけのオリバーに、必死に話しかけた。
「オリバー、話はドルフから聞いたわ。もう大丈夫なのよ、ドルフが時を戻してくれたのだから。あなたがしたことで傷ついた人は誰もいない」
「……でも、僕のせいで、父上が死んだかもしれないんだ」
災害が起きたときの衝撃が、オリバーの中からは抜けていない。
「そうね。判断が甘かったのは認めるわ。でもそれは私もそう。あなたひとりのせいじゃないの」
「でも……」
繰り返し、何度でもフィオナは言う。
「誰も死んでいないわ。ドルフがチャンスをくれたのよ。私たちは失敗をやり直せるの。もう二度とこんなことが起きないように、一緒に考えていきましょう?」
「僕は、……もしまた、あんなことをしてしまったら」
フィオナのどんな言葉も、今のオリバーには届かない。
(母親なのに、……無力だわ)
フィオナはこの間つきっきりだ。言葉が届かぬもどかしさに、疲労を感じ始めていた。
「フィオナ様も少し休みませんと」
「シンディ……でも」
シンディの後ろから、子犬姿のドルフがやってくる。
「キャン」
「ドルフ」
「ほら、ドルフも同じように思っていますわ。少し中庭をお散歩して気分転換してくださいませ」
シンディに背中を押され追い立てられ、フィオナはひとまず外に出た。
いつも目を楽しませてくれる新緑の緑も花の色も、オリバーがあの状態だというだけで色あせて見える。
「ドルフ」
『なんだ』
「個人的なわがままだと承知しているけれど、お願いがあるの。時を止めて、オスニエル様を連れてきてくれないかしら」
『オスニエルをか?』
「あの子。自分がオスニエル様を殺してしまったと思い込んでいるのよ。姿を見ないとどんな声も届かないような気がするわ。王の子としては、お戻りをお待ちするのが正しいとはわかっているけれど」
半泣きのフィオナの耳に、キンと空気の固まる音がして、銀色の光をまとった狼が現れる。
『あいつだってオリバーの親だ。現状を知れば、あっちの方から頼んでくる』
「ドルフ」
『そんな顔するな。腹の子の健康に悪い』
フィオナの頬をぺろりと舐めると、ドルフは空に浮いた。
『本当ならば、お前を乗せて言ってやりたいが、大事な時期だ。部屋で待っていろ』
「ありがとう、ドルフ」
飛び立っていくドルフを、フィオナは感謝の気持ちを込めて見つめた。



