チャドは地面に降り立つと、「チュチュ」と小さく泣きながら周囲を歩き回った。
「チャドは、この土地に住む聖獣なの?」
『ああ、そうだ。ずっと昔からな』
「ここ、聖域には見えないけど……」
聖獣が住む場所は、空気の清浄な自然の多いところだと聞いている。ここはかなり人の手が入ってしまった印象があり、聖獣がいつく土地には見えなかった。
「聖域だった時もあったのだ。俺がまだ若く、ここに小さな王国があった頃だがな」
昔を懐かしむようなチャドの言動に、オリバーは少しだけ違和感を覚えた。
オリバーは改めて広大な土地を眺める。土地が掘り起こされ、あちこちに作業人のための休憩施設がある。例えば地震で脅して採掘をやめたとして、ここが聖域と呼ばれるようにはなるだろうか。
(……そのためには百年単位で時間がかかるんじゃないかな)
自然を切り開いた人間が悪くないとは言わない。でも人間も生きていくために必要があり、土地を切り開いている。今さらここを取り戻すことが本当に正しいのか、オリバーは少し疑問に思えてきた。
「……チャド」
『ここがいい。さあ、オリバー』
「う、うん」
チャドが先ほどと同じように、地面に手を当てる。
オリバーは不安に駆られて、一瞬振り返った。ドルフがちゃんと見ているのを確認し、チャドに手を伸ばす。
『力を、オリバー』
「う、うん」
地面が軽く揺れ始める。オリバーはゆっくりと目を閉じた。
視界が真っ暗になると、オリバーにはチャドの力が光の塊のように感じられた。
それが、自分の力の影響を受け、広がっていくのが感じられる。
(……あれ?)
同じような光が、地面の底にもあった。それはまるで吸い寄せられるように、自分たちの方へと向かってくる。
「どうして?」
光が重なった瞬間、チャドの力が突然に増幅した。地面の揺れが急に激しくなる。
見ると、チャドが金色に光っている。それに、心なしかいつもより大きくも見えた。
オリバーがチャドに気を取られた瞬間、ぐっと力が吸い取られた。
『ん、いかん!』
ドルフも異変に気付いたようだ。が、遅い。



