8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~3


 アイラはじっとオリバーを見つめてくる。やましいことがあるので、オリバーは、思わず目をそらしてしまう。

「オリバー、私には言いたくないの?」
「アイラ、違う。その」
「私のこと嫌いなの? だから私に隠すの?」

 アイラの声が潤んでくる。オリバーは困ってしまう。アイラを泣かせて平気でいられるほど神経は太くない。

「違うんだよ。アイラ。その、……ああ、もう、入って」

 オリバーはアイラを中に引き入れる。新たなる人物の登場に、チャドは一瞬たじろぎ、寝床の後ろに隠れた。

「チュウ!」
「え? 生き物?」

 アイラはすぐに駆け寄り、逃げようとするチャドを掴んでしまった。チャドが足をバタバタとさせている。

「オリバー、なにこれ、聖獣?」

 人ならざるものを感知する能力は、アイラの方が長けている。アイラは迷いもなくそう言い、ネズミをのぞき込んだ。
 チャドは、アイラのにおいを嗅ぎ、しかしながらそれ以上の興味を示さず、寝床でゴロゴロと転がった。

「かわいいー。どうしたの? どこから拾ってきたの?」

 見つかってしまってはもう言い逃れもできない。オリバーは諦めて、チャドを見つけた経緯を説明した。

「この間、地盤沈下の場所を見に行ったときに、見つけた」
「どうして教えてくれなかったの?」

 率直に尋ねるアイラに、オリバーはどう伝えようか迷う。
 チャドまでアイラに取られたら……なんて不安を持っていることを、アイラに知られたくない。だけど、アイラのピンクがかった灰色の瞳がまっすぐのぞき込んでくると、嘘もつけない。
 オリバーは目を泳がせたまま、歯切れ悪く理由を語った。

「……アイラに見せたら、チャド……このネズミも、アイラに夢中になるんじゃないかと思ったんだ」
「オリバー?」

 ひとつ吐き出してしまうと、口からどんどん滑り落ちていく。オリバーは内心焦りながら、でもどこで止めたらいいのかわからなくなっていた。