オリバーは微笑んで「チャド。僕はオリバー。よろしくね」と答えた。
その反応に、チャドは目をまん丸にした。
『おまえ、我の声が聞こえているのか?』
その反応に、オリバーは微笑む。
「僕は聖獣の加護持ちだから。君の声、ずっと聞こえていたよ」
『……ならば、子供のふりなどしなければよかった』
先ほどの、腕を滑り台にした件だろうか。わざとだったにしては、ずいぶん楽しそうだったが。
オリバーがくすくす笑うと、チャドは嫌そうに睨んでくる。
『強い聖獣がいるとは思っていたが、まさか加護まで得ているとは……』
「ドルフのこと? だったら違うよ。ドルフは僕の母上の聖獣。僕に加護を与えてくれたのは、白の狼リーフェ。今ここにはいない」
オリバーは普段、ドルフやリーフェが仲良くしているのを見ているし、ドルフがもともといたラングレン山には聖獣がたくさんいたというから、聖獣同士は通常交流があるものかと思っていたが、チャドはそれほどほかの聖獣と面識がないらしい。
『ほかにもいるのか? そいつも狼ならば、ずいぶんと力は強いのだろうか』
「そうだね。力は強い聖獣だって聞いたよ。ただ、僕の加護は、双子の姉と半分こだから」
オリバーは、自分たちが母親のおなかにいたときに加護を得たことを説明する。
『……ひとりでふたりの人間に同時に加護を与えることなどできるのか?』
チャドはひげを右手でかき、考え込むように丸くなった。
「できているみたいだよ」
『ふむ……』
それ以上は話さなくなったので、オリバーも黙って本の続きを読んだ。
とりあえず、意思疎通ができるようになっただけで、オリバーは満足だった。



