学校から帰ると、アイラはまず、フィオナを探す。
お腹が重いのか、最近のフィオナは居間でソファに体を預けているか、寝室のベッドで横になっているかのどちらかだ。
今日は居間のソファにいて、フィオナの隣には子犬姿のドルフが陣取っている。
「母様、ただいま帰りました。調子はどう?」
「お帰りアイラ。元気だから心配しないで」
ゆったりとほほ笑むフィオナに、アイラはほっと息を吐く。
妊娠・出産は、危険が伴う女性の大きな仕事だと、アイラはフィオナのもとに通う産婆から聞いていた。まれに、命を失う者もいるのだと。
何事もないと信じてはいるけれど、不安をぬぐい切れないアイラは、できるだけフィオナと過ごすことにしている。
「ドルフ、場所譲って!」
『まったく。お前はいつまでも甘えん坊だな』
「人のこと言えないでしょう? すぐ母様の膝を奪おうとするくせに」
ドルフを追い出し、フィオナの隣に座ったアイラは膨らんだお腹を優しく触る。
「赤ちゃんは元気かな。早く出てきてくれたらいいのに」
「そうね。でも元気よ。ほら、お腹を叩いているわ」
手のひらに感じる振動に、アイラは顔をほころばせる。
「わあ、本当だ」
アイラは生命の神秘に思いをはせる。
母親のおなかに、生きている人間が入っているなんて不思議すぎる。自分たちの時はふたりが入っていたのだ。よく母の体が無事だったなと思う。
アイラは、兄弟ができるのを楽しみにしていた。
オリバーとは双子なので、姉弟といっても少し感覚が違う。一応アイラの方が姉だが、オリバーの世話などをした記憶などないし、オリバーも弟として頼ってくるという感じではない。しかし、これから生まれてくる子は、必ずアイラの庇護を必要とするのだ。
(私が守ってあげるんだから)