翌朝、オリバーは早起きしてこっそりと厨房を訪れた。
「おや、オリバー様?」
まだ誰もいないかと思ったのに、厨房の朝は早いらしい。料理長が保冷庫を見ながら悩んでいるところだった。
「料理長、お菓子かなにか、少しだけ分けてもらえませんか」
「お菓子? でもオリバー様、時期に朝食の時間になりますよ」
当然の返答だが、それでは困るのだ。オリバーは背伸びをして料理長に耳打ちした。
「その前に少しだけ先にください。僕、お腹が空いちゃって……」
「はは。成長期ですもんね。オスニエル様のお子ですから、オリバー様も大きくなるんでしょうなぁ」
大柄な料理長は豪快に笑い、クッキーを一枚分けてくれた。
オリバーはお礼を言って、人目につかないように部屋に戻る。
ネズミの寝床の前に、お水とクッキーを置いておく。
「これ、クッキー。食べられるようなら食べてね? 僕は学校に行く支度があるから、行くね。誰かが来たら、机の下のルームシューズの中に隠れて。そこなら誰も見ないと思う」
ネズミは片目を開けたまま黙っていたが、オリバーは伝えるべきことを一気に言い、部屋を出た。
廊下には、アイラが待ち構えていた。腰に手を当て、頬を膨らませて怒っている。
「オリバーったら、昨日、どこに行っていたの? 夜に覗きに来たら、もぬけの殻だったんだよ!」
どうやら不在中にアイラが部屋を訪れていたらしい。普段は一度寝たら起きないのに、なにかの勘が働いたのだろうか。
「ちょっとドルフと。……父上がいく予定の視察先を見てきたんだよ」
「危ないじゃない! 行くなら私も誘ってくれればよかったのに」
怒るアイラを、オリバーは必死になだめる。