「でね。拍手がすごかったの。私、お姫様にでもなった気分だった」
「アイラはお姫様じゃないか」
「あ、そっか。でもね。本当に、とっても気持ちよくって。私、やっぱり歌うのが大好き」

 後宮の居間で、フィオナが背もたれに体を預けている。向かいのソファには、アイラとオリバーがふたり並んで座っている。一生懸命まくしたてているのは、アイラだ。

 今日は、学校で合唱祭があったのだ。来賓としてオスニエルが出席してくれたことも、アイラの興奮の理由だ。

「母様も見たかったわ」
「私、今歌ってあげる!」

 アイラがコホンと咳ばらいをし、服を手で軽く整えてから歌い出す。
 フィオナはそれを幸せな気持ちで眺めた。もう臨月となるお腹の子供も、興奮したのかお腹を蹴っている。

「動いているわ」
「……触ってもいい?」

 オリバーがおずおずと言ってくるので、フィオナは彼の手を取り、一緒にお腹にあてる。

「るる……あっ、いいな、オリバー!」
「お姉ちゃんの歌を聞きたがっているんだから、やめないでアイラ」
「ううっ、……るるるー」

 アイラが歌っている間、お腹の子は拍子をとるようにフィオナのお腹を蹴り上げていた。
 ドルフとリーフェも、子犬姿で床に寝転がりながら、尻尾を揺らしている。
 アイラが歌い終わると、フィオナもオリバーも拍手をする。それだけではない。ドアの外からも拍手が聞こえた。

「誰?」
「素敵な歌声ですね。失礼してもよろしいですか?」

 居間に入って来たのは、ポリーに案内されてきたジャネットだ。

「まあ。ジャネット様」
「遅くなりました。フィオナ様。この度は公務のお手伝いということで呼んでいただきまして」

 王妃としての公務は、オスニエルがある程度は済ませてくれるが、孤児院事業はそうはいかない。
 それで、ジャネットに協力を仰いだのだ。

「申し訳ないわね。ジャネット様も自領でのお仕事があるのに」
「大丈夫ですわ。今は兄嫁がおりますので、私などいなくてもいいくらいですの。呼んでいただけて、ありがたいくらいです」

 ロイヤルベリー公爵が遅い結婚をしたのは、七年前。ちょうどオスニエルが戴冠式を行ってすぐ後だ。
 最初はジャネットが教える形で、孤児院事業や領内の事業の取りまとめなどを行っていたそうだが、兄嫁はなかなかのやり手で、最近はジャネットの出る幕はないらしい。
 ジャネットには城に部屋を用意し、しばらく一年ほど滞在してもらう予定になっている。