十歳の王子が聖獣の声を聴いたという噂話は、ここから瞬く間に広がっていった。銀のメッシュが入ったその一風変わった髪が、間違いなくブライト王国の血を継いでいることを証明しているため、オリバー本人が思うよりずっと、それは信ぴょう性を伴って伝わっていったのだ。

 そのことでオリバーを持ち上げて、聖獣から力を得ようという者も多くいたが、そちらに関してはオスニエルが一蹴した。

「我が国はもともと聖獣など信じてはいないだろう。いることは認めるが、力を借りすぎれば国が弱体化するだけだ。俺は俺の信じる道を行く」

 オスニエルはそう言い、実直な国家運営を崩さなかった。
 できる限り石の力には頼らずに済むようにと、たくさんの研究者を集め、有効な自然エネルギーを模索し続けたのだ。

* * *

 城に戻り、リーフェとドルフは並んで中庭への道を歩いていた。二匹とも子犬姿なので、周囲も微笑ましく見守っている。

『ふん。ふん、ふーん』
『ご機嫌だな』

 リーフェはしっぽを振りながら耳をピンと立てる。

『うん! オリバーが頼ってくれたからね!』
『ああ。だが、あまりこの国の人間に姿を見せるのは感心しないな。特に、お前の力は利用しやすい力だ。チャドがオリバーの力を狙ったようにお前も利用される可能性はあるんだ。気をつけろ』
『ふうん? でも、ドルフは私に力を貸せって言わないよね?』
『俺は強いから、お前の力など別にいらない』
『ふうん』

 リーフェはそよそよとした風に吹かれながら考えた。

 アイラもオリバーも力を貸してほしいとはめったに言わない。ただ、傍にいてほしいという。だからここは自然が少ない割には、居心地がよくて温かいのだ。

 聖獣の加護を持たないオスニエルに至っては、聖獣の力は認めていながら、できるだけその力を使おうとはしない。
 ここにいる人間たちは、力を求めてではなく、リーフェ個人を求めてくれるのだ。

 それはとてもうれしいことだ。リーフェはようやく、ママ以外に信頼できる人たちを見つけた気がする。

「私、ずっとドルフのそばに居ようかな」
「は?」
「だって。ドルフなら私の力を悪用しようって考えないし? オリバーやアイラともずっと一緒にいられるしね」

 立ち止まってほうけるドルフをよそに、リーフェはご機嫌のまま歩いていく。

『……っ、子供なのもいい加減にしたらどうだ』

 ドルフのボヤキは、リーフェには届かないまま風に吹かれていった。