* * *

 オスニエルは困惑していた。
 オリバーの一件から戻って、オスニエルはベンソン伯爵に再び土地の調査を命じた。その際、地質の専門家も一緒に付き添わせた。

 彼によると、ここは非常に変わった地層をしているらしい。
 表土は硬い岩場となっていて、その下に岩盤と砂礫が入り混じる層がある。純度の高い鉄鉱石が採れたのもこの地層だ。火山などで溶岩が解けてできる地層に似てはいるが、相違点もまた多くあるそうだ。

 そのすぐ下の層が、粘土層になっていて、かつてここに深い水場があったことを示している。しかしずいぶんと時が経ち、水が抜けたことにより隙間が多く、これが地盤沈下の原因となっているようだ。

「比較的薄い岩盤の層からしか、鉄鉱石は取れないのだ。であれば、もう採りつくしたと考えるのが妥当ではないのか?」
「たまたま調査したところが薄い層だっただけかもしれません。通常、半年で採りつくすことなどないでしょう? オスニエル様だって、鉄が必要だとおっしゃっていたではありませんか」
「しかし、無理に採掘をして地盤が緩んではどうしようもない」

 ベンソン伯爵との話し合いは平行線をたどっている。

「別に補助金を返せというわけではない。今ここで閉山することに問題でもあるのか?」
「補助金だけで全部賄えているわけではないのです。働く人間への補償だってあります。一度始めたものをそう簡単に辞めるわけにはまいりません」

 オスニエルには、伯爵の言うことも理解はできる。
 実際に領土で働く労働者に責任を持つのは、土地の管理者である領主だ。鉱山を開くにあたり、新規に雇った人間も多いだろう。突然仕事が無くなることを恐れるのは当然の心情だ。

「だが、実際、地盤沈下は起こった。今回は軽いものだったから怪我人も出なかったが、これ以上採掘を続けることによってリスクは高まるだろう? たしかにこの土地からとれた鉄は素晴らしいものだった。しかし、人命に変えられるものではない」
「しかし、仕事が無くなれば死ぬしかない人間だっております」