翌日、オリバーはフィオナに、ベンソン伯爵領に連れて行ってくれるように頼んだ。
「でも、あなたが行ってどうするつもりなの?」
「父上や、ベンソン伯爵に直接伝えたいことがあるんです。どうしても今じゃないと駄目なんです」
学校を休むことになるので、フィオナは渋っていた。オスニエルに会うだけならば、ドルフの力を借りて時を止めている間に行ってこれば済むことだ。
「誰の目にもわかるように行かないと駄目なんです」
「お母様。私からもお願い。授業のノートは私がちゃんと取るし、後でオリバーにも教えるから」
ふたりの必死な様子から、ただ事ではないと感じ取ったフィオナは、カイに護衛を頼んで、連れて行ってもらうよう手はずを整えた。
「なんか、すっきりした顔をしていますね」
旅の道中で、カイがオリバーに言う。
「分かる?」
「ええ。いい目になりましたよ」
「そうかな」
オリバーはまだ乗馬は練習中なので、カイに同乗させてもらっている。
自分をよくわかってくれているカイにそう言ってもらえるのは、うれしくもあり、安心もする。
「よくね、ポリーと話をするんです」
「なにを?」
「俺たちの子供たちがオリバー様やアイラ様に仕えるだなぁと。楽しみで仕方ないですよ」
カイの言葉には裏がない。すとんと胸の奥に落ちてきて、オリバーは素直にそんな未来を想像できた。
母にとってのポリーのように、父のとってのロジャーのように、心から信頼できる人が傍にいる未来。そんな仲間を自分はこれから作っていくのだ。
「僕も、……楽しみだよ」
「俺もその時まだおそばにいられるといいんですけどね。すでにもうおっさんですからねぇ」
「カイは父上より年下でしょう? まだまだずっと頑張って、僕を支えてよ」
「はい。光栄です」
オリバーは前を見る。父は父のやり方で、オリバーはオリバーのやり方で国を支えていくのだ。やり方は違っても、目的は一緒だ。きっと支え合っていける。
そう考えられるようになったことが、一番うれしかった。