「ああもう、びっくりした。大きな声出さないでよ、オリバー」
「ごめん。……でも」
オリバーは感激していた。きっかけはチャドが起こした微弱な地震ではあったが、鉱山夫たちは自分で考え直してくれた。
そのひとつとして、オスニエルの王としての在り方が影響していたのだ。
(民の声に耳を傾ける。父上がそうしてきたから、あの人たちは間違いを正そうとしてくれたんだ)
王としての生き方が、民を変えることもできる。であれば自分は、自分らしく正しく生きることで、誰かを正すことができるかもしれない。
「父上はすごい」
「そうね」
「僕、父上のようになりたい」
瞳をキラキラとさせてそう言うオリバーに、アイラは満面の笑みを見せる。
「オリバーなら、できるよ、きっと」
『王家の子供たち』
グロリアが話しかけてくる。彼女の体は先ほどより薄くなっていた。
『未来は、あなたたちの手の中にあるわ。国を統べることは簡単ではないけれど、正しさを見失わなければ、大丈夫。ふたりとして存在したあなたたちは、お互いを客観視できる。きっと、支え合い、いい国を作ることができるでしょう』
『グロリア、逝くのか』
『ええ。チャドと話せたもの、もう心残りもないわ』
グロリアが少女のような笑みを見せる。チャドは神妙な顔をすると、目を閉じた。するとチャドの体が少し大きくなり、体毛の光が一層強くなる。
彼はその後、グロリアの骨に手を当て、力を込めた。石は光を放ち続けるが、チャドの体は徐々に縮んでいき、体毛もやがて光を失っていく。
『土地を守っていた力と、残っていた力をすべてこの石に込めた。これをオリバー、お前にやろう。地面にまつわることならばたいていのことはできるだろう。まあ、永遠ではないがな』
「チャド、でもこれがないとチャドは……」
『我も、もうここに執着する必要がないのだ。約束を守ってやれなくて悪いが』
オリバーだけの聖獣になると言ってくれた約束を、チャドが覚えていたことがオリバーは意外だった。
「ううん。僕にはリーフェがいるんだもん。図々しい願いだった。ごめんね」
『お前のことは気に入っていたよ、オリバー。だが我はもう、消えゆく聖獣だ。せめてもの力を置いていく。どうか』
──この地を正しく導いてほしい。
最後まで言葉にする前に、聖獣とグロリアは消えていった。



