「……チャド」
「そんなことがあったの」
チャドの過去を垣間見たアイラとオリバーは、顔を見合わせた。
守るべき人を、守れなかった彼は、代わりのようにこの土地を守って来たのだろう。
「六百年って、どのくらい? オリバー」
「おじい様のおじい様、さらに……もっと数えきれないくらい前のことだよ」
「聖獣って……そんなに長く生きるの?」
オリバーのつぶやきに、ドルフが首を振る。
『種族によるな。狼族は二百年ほどだ。初代も王家を三代見守った頃に身罷ったと聞いている。……長命の理由は、おそらく小型の種であることか、単純に力が強いか、力を使う個所を限定してきたか』
もしくは、執念。
グロリアの眠る場所を、ただ守りたいと願いながら、それだけに力を使い生きてきた。
「チュウ……」
身を削りながら生き長らえたネズミは、小さな背中を丸めている。
「その間、ひとりで生きてきたの? チャド」
アイラの瞳に涙が浮かび上がる。
『はっ、同情など、されたくもない。それより、なぜこんな光景が浮かんできたんだ?』
「それはたぶん、これのせいだと思う」
オリバーが差し出した白い石。チャドはちょこちょこと近づいてきて、触る。
「前に、ドルフと散歩に来て拾ったんだ。なんとなく、この石自体が僕を呼んでいた気がして、最近はずっと持っていた」
いびつな形の白い石は、ほのかに光っていた。
『これは……おそらくグロリアの骨だ』
「え?」
オリバーは思わず手を引っ込めそうになる。人間がこんな風に残ることがあるとは、思わなかったのだ。
アイラがまじまじと石を見る。
「嘘。本当に? そんなことある?」
『あの時、隕石はこの土地を穴だらけにするような勢いで落ちてきた。つぶされた遺体が無事だったかどうかも怪しいものだ。残った遺体の一部分が長い年月をかけて風化し、骨が摩耗されて石のように残ることもあるだろう』
チャドがそう説明し、『まあそれだけの年月が経ったということだな』とドルフが続ける。オリバーは何と言ってか分からず、ただその石を握りしめた。



