グロリアにそう言われ、チャドは黙ってぷいとそっぽを向いた。
カルニック王国は、肥沃な大地に守られ繁栄した王国だ。善良な国民と気さくな王家の関係は良好だった。特に女王グロリアの時代は、彼女を愛した聖獣が外敵から守ってくれたため、平和そのものだった。
十年前、グロリアは早くに両親を亡くし、わずか十五歳で王位を継いだ。その時はとても大変だった。後見人として権力をむさぼろうとするもの、王配になろうと画策する者など、グロリアの周りは、悪意で満たされたのだ。
カルニック王国の王家は、巫女の血筋だ。彼女は神殿に祈りを捧げ、神託を得る。
グロリアは誰も信じられるものがいない中、ただ神託を頼りに国政を担ってきた。
『嫌にならないのか、お前は』
とある日の祈りの時間にそんな声が届き、思わずグロリアは口をぽかんと開けてしまった。それまで、真面目くさった神託しかしなかったのに、急に気さくに話しかけてきたのだから。
「神様?」
『面白がって続けていたが、飽き飽きしてきた。なんだ、お前の周りの男たちは』
豊穣の神と言われた女神像の後ろから、ひょっこりと現れたのは大きなネズミだ。
「ひゃっ……」
『我が名はチャド。お前たちが神だとあがめてきたものだ』
「まあ、こんなに小さかったの、神様は」
『神ではない。我は聖獣だ』
チャドは鼻をツンと立て、得意げに言った。金色に光る毛並みは神々しいが、あまりにも見た目がかわいすぎる。グロリアは笑い出したいのをこらえるのに精いっぱいだ。
「飽き飽きしたということは、もう守護はしてくださいませんの?」
『……お前がしてほしいなら、考えてやらんこともない』
尊大な言い方だが、鼻をツンと立ててひげをピクピク動かすあたりは好奇心でいっぱいで、子供のようだ。
「私はまだ若い、頼りない女王ですもの。ぜひお願いいたしますわ」
『ふん。仕方ないな。では我のことはチャドと呼べ』



