オスニエルの戴冠式が行われてから、早七年。
 オズボーン王国は、その間戦争もなく、平和な日々を過ごしていた。
 各領土の特性を活かそうという彼の政策を推し進めるため、交通網の整備が重点的に行われ、新聞が流通するようになり、情報が価値のあるものへと変わってきていた。
 しかし人は、常にさらに上を求めるものである。
 オスニエルは、試行錯誤を重ねながら進化していく国の長として、また、ゆるぎない信念を持つ柱として、忙しい毎日を過ごしていた。

「いかん。つい時間が過ぎてしまったな。今日はこの辺にしよう」
「はい。お疲れさまでした。オスニエル様」

 側近のロジャーが、資料を両手に抱えたまま、にこやかにほほ笑む。
 夜はすっかり更けている。うっかり時間を忘れてしまった自分に、オスニエルは苦笑した。

 そもそも、執務自体はもっと前に終わっていたのだ。
 使用人たちを遅くまで働かせるのはよくないとフィオナが言うので、最近は執務が終わらなくとも、食事と入浴は決まった時間に済ますことにしている。
 だから否が応でも、執務はそこで一区切りはするのだ。
 しかし、どうにも気になるところがあり、後宮に戻る前に資料を確認しようと執務室を訪れると、ロジャーがまだ仕事をしていて、ついつい話し込んで今になったのである。

 窓の外には見張りの近衛騎士たちが持っているランプの明かりが、暗闇の中を動いている。

「……お前もとっとと帰れよ。俺が後宮に戻ってからもずっと仕事しているだろう」
「え? いやあ、屋敷に戻っても特にやることもないので」
「早く奥方をもらえと言っているだろう。あんなに結婚したがっていたくせに、いざ爵位を与えたら、急にその気が無くなったのはどういうことだ」
「まあ、いろいろあるんですよ。私にも」

 ロジャーには、五年前に子爵位を与えた。そのため、彼の正式な名前は、ロジャー・タウンゼント=エーメリー子爵となる。生まれながらではなく、功績によって与えられる爵位の中では、決して低い方ではない。

 これで働きすぎの側近を労ってやろうと思ったのに、ロジャーは爵位をありがたく受け取ったものの、その後の縁談はなんだかんだと断って、今だ独身である。