「……引っ掛かって良かった」

「…違うっ……間違えたぁー…」
と言いながら、私と魔王様は少しだけ、走るけど。


「ねえ……俺のこと、覚えてる?」


小走りながら、私に聞く魔王様。


「えっ?…覚えてるって…?」


「ううん。なんでもねえよ」
と魔王様は言って、話を逸らしていた。

ってあれ?

ううん。は甘々で。
なんでもねえよ。は…俺様?!

あれ?これは……みたことないんじゃない!?

と私は、少しだけ心の中で嬉しがっていたら。


もう一目が付かない方へともう着いていた。
その場所は、人気(ひとけ)がない部屋(教室)の廊下で。


「……あの?」

私は魔王様を恐る、恐る見ると。

「俺さ……2日目でさ、楓を奪って、一緒に帰ろうと思ったのにさ……」

マスクを取って。
「アハハッ…」と苦笑いのように、右の頬を人差し指で掻く魔王様。
けど……魔王様の顔じゃないみたいな顔。

そのことを言おうとしたけど、言えなくて。


だけど。
今、心の中で考えてみた。


“楓を奪って帰ろうと思ったのにさ……”


えー、まず、魔王様の言葉、声をリピート再生致しまして……って、ん?

UBAU?
奪う?争奪戦の奪?


ちょっと待て待て。

んーと?

奪う……って……

「へっ!?」
魔王様が話している途中に、変な声を出してしまった。

待て。待て!!!
奪うって……奪う!?

(はい。奪うです。あなたの言った通りの争奪戦の奪う。by作者)

私の頭の中では検討が付いていて、魔王様の声に頭が追いつかない。


秋風楓さんの検討は。
私(楓)を魔王様は奪い、魔王様がいや〜なことをやると検討が付いております。

(いや〜ん♡恥ずっかしい〜!by作者)


私、楓の心の中は。

やめろやめろ〜〜〜!!
私が頭の中で想像していたものを消そうとしていた。


「変な声出して、可愛ぃな?」


「フッ」と一瞬笑って言う魔王様の顔は切なそうで。
私の頭をポンポンと撫でる。

その反動で、私の視界は床になる。

…けども、
私は魔王様が私の頭を撫でているのも。
視界が床になったのも。

気づかなくて。

『奪う』という言葉の意味を頭の中で考え出すのでいっぱい、いっぱいだ。

だから、魔王様が私の近くに来て。



「ねえ。楓、…話、聞いてるかな゛?」



……っ!!


私の耳の横で直接響く、俺様になろうとしている魔王様の声。

私は、すぐに上へと頭を向かせ、
魔王様の顔へと私の視界を映らせる。

そして、私は、
「き、聞いて……っ!?」
と「聞いてますよ。魔王様」なんて、言おうとした。

だけど、魔王様の顔と私の顔が近くて。
一歩でも動いて、私が背伸びしたら、すぐキスが出来そうな位置。



「ん?なーに?」

と言いながら、私の腰に魔王様の両手が来る。


「っ……!」

触っただけで……!

やばい。魔王様の顔を見るとやばいから、下を向こう……。

私はゆっくりと自然に視界を魔王様ではなく、また廊下の床になる。


それを魔王様は逆手に取ったのだ。






「俺の嫁は……世界一可愛いんだけどね。」



声だけ、声一筋で私の耳に入って来て。





「はいっ?!」

私は視界が上になる。


「あれ?いいの?婚約?」


そう魔王様、王政義數は。

私(楓)が、耳の横で声などをすると、
敏感になって来ていたことを知っていたので、私が下を向いたことを逆手に取っていたのだ。

「いえっ!!違います!!」
私は上を向き、魔王様に視界を映しながら、ブンブンと首を大きく振る。



いやいや。


私と魔王様が……。
だって、現に、最初、結婚破棄して……ってあれ?




「あ、あの。「……まぁ。文化祭、夜までいるよ」

私の言いたいことを遮り、また私の頭をポンポンと落として、私の頭を撫でた魔王様。

私は、頭を撫でていることに気づいてはいたけど、それどころじゃなかったのだ。
今さっき気づいたことが、私の人生の中で重大なことだったのだ。

そう。……私と、魔王様。


結婚破棄してないじゃん。