そのキスの最中に。
「……んぅ…兵雅(ひょうが)…っ」
思い出してしまった。
「だれ?それ?」
魔王様が私に尋ねて来る。
元カレを。……『元』彼氏を。
「……元カレで…んぅ!!?」
「もっと言ったら、口をもっと塞ぐから」
「もう……ひゃめてっ……!」
「やめねえよ。馬鹿子犬。」
そう言って、私の口にキスするとき、角度が毎回、違って。
キスをする時間も。
長かったり、短かったり。
……私は、魔王様なんて、好きな人じゃないのに。
なんて思ってるのに。
「んっ……!!」
キスを許してしまう、私は。
どうかしているのかもしれない………。
「……楓。お前の声をもっと聞かせろ」
私が自分の耳にしかと受け取ったのはその声が最後だった。