そういえば、彼の家にお邪魔するってこともなかった気がする。


「……そういえば、そうだね」

 わたしの同意に「だろ!?」と大きく反応する晴樹。

 そんな晴樹は、ちょっと恥ずかしそうに頬の辺りをかきながらある提案をした。


「その、だからさ……。最後の一か月、恋人らしいことしないか?」

 その提案を聞いた途端、わたしは素直に嬉しいって思った。


 そうだよ!
 カウントダウンが始まって寂しいって思うなら、せめてその一か月でめいいっぱい思い出を作ろう。

 最後の一か月は、楽しい思い出にしたい。


「うん! いい考えだね!」

 わたしの前向きな同意に気を良くしたのか、晴樹も嬉しそうに「そっか、良かった!」って笑顔になる。

 ただ、その後すぐにまた恥ずかしそうに頬をかいてポソポソ話し出した。


「その……ハグしたり、デートしたりして……最後にはさ……」
「うん、何?」

 何をそこまで恥ずかしがるのかと思ってうながしてみると、予想していなかった言葉が彼の口から出てくる。


「その……キス、したい……口に」
「………………へ?」

 キス……口にって……。


「っっっ!?」

 理解すると同時に一気に顔に熱が集まり、少しの息でもまた眼鏡が曇る。

 でも良かったのかもしれない。

 眼鏡が白いおかげで、今わたしがどんな顔をしているのか晴樹に見られずに済んだんだから。


「……ぅん、分かった……」
「そ、そっか?」

 その後は何となくどちらも口を開けずに、最後に「ばいばい」と別れるまで無言で歩いたんだ……。