そんなわたしを晴樹は抱きしめてくれながら、願いを口にした。

「なぁ……美穂。……キス、していいか?」

 ひと月前、恋人らしいことをしようと提案したときから言っていたこと。


 最後の日である今日に、したいと晴樹が言っていた。


 そうだ。

 だからわたしは、最高の思い出にしようと思ったんだっけ。


 失敗してしまったけれど、それを思い出してグッと涙を止める努力をする。

「……いいよ。でも、涙で変な顔になっちゃった」

 涙の跡をぬぐいながら、出来る限りの笑顔を見せる。

 そうしたら、晴樹も笑顔を見せてくれた。


「泣いてても、美穂は可愛いよ」

 流石にそれはお世辞だよね?って思うけれど、今は素直に受け取っておいた。

「……ありがと」


 悲しげだけれど、お互いに笑みを交わし合いながら見つめ合う。

 晴樹の右手が、わたしの頬に添えられた。

 トクントクンと心音が早くなる。

 近づいて来る晴樹の顔が恥ずかしくて、そっと瞼を閉じた。


 そして、晴樹の思ったより柔らかい唇がわたしに触れる。

 チュッ

 リップ音を立てて離れた晴樹に、わたしは驚きの表情を返す。