周りはみんなお金持ちで、話している内容は高級フレンチやイタリアンを食べたというものや、海外旅行に行った、エステなど結衣にはわからない話ばかりだ。そのため、高校に入学してもう半年は過ぎているのだが、結衣には友達と呼べる存在が一人もいない。

（まあ、あたしは走れるだけで幸せだからいいけどね）

お金持ちの人の空気には慣れないが、設備が整ったグラウンドで走れることが嬉しいため、結衣は部活の時間を楽しみに毎日学校に通っている。

「ふぅ〜、気持ちいい！」

グラウンドを十週ほど走り、結衣は上がった息を整えながらゆっくりと歩く。次は股関節を意識して走ってみよう、そう思いながら水を飲もうと結衣が思っていると、グラウンドに女子生徒たちの悲鳴が上がる。

「天王寺先輩よ〜！」

その声に結衣が声のした方を向けば、艶やかな黒髪を風に靡かせ、ダークブラウンの大きな瞳を持ち、百八十センチほどの高身長の男子生徒が歩いてくる。華やかな顔立ちの彼が纏う空気はどこか煌めいており、住んでいる世界が違う人だと結衣は一瞬でわかった。