しかし、三角食べが出来る食卓は豊かな食卓ではないかと考えるときもある。
 世の中食糧事情の厳しい国のほうが多いはずで、器の大小はともかく机の上に幾つも食器を並べて食事をするのもそれはそれでたいそうなことだと思うのだ。
 「一汁三菜」はまさに和食に必須の献立で、ご飯ものにひとつ汁物を、そして主菜をひとつと副菜がふたつというものだが、お米と汁物はともかく主菜は魚や肉を使い副菜は野菜やキノコを使う。
 この献立のどこが豊かなのかというとすぐには説明がつかないが、一度自分で作ってごらんなさいよと言われるとその豊かさが身に染みるように思われる。
 過去にコース料理に見立てた形の簡単なクリスマスディナーを一人前作ったことがあるのだが、これが恐ろしいほど大変な料理であった。
 クリスマスといえば日本では恋人たちの日であり欧米では家族の日であるが、この時の私には恋人はなく所謂(いわゆる)「クリぼっち」で地元を離れて一人暮らし、友人も生憎(あいにく)ご家族や恋人と楽しいクリスマスを過ごしていたようなので、私はせめて自分のためにということでせっせとクリスマスの日の昼からディナーの準備を始めたのである。
 前菜にグリーンサラダ、スープはミネストローネでメインは奮発してブランド豚のソーセージグリル、そして自家製の白パンにデザートは祖母からもらったチョコレート。
 主にディナーを作る過程で時間を使ったのはパンなのだが、野菜を盛り付けてスープの具材を切って煮込みソーセージを焼くというだけでも難儀(なんぎ)なことである。