食事の作法はどちらかというと厳しく(しつけ)けられたと思っている。
 他所様(よそさま)の躾がどのようなものかを存じ上げないので何とも言えないところではあるが、お箸の持ち方から食事の食べ方、配膳の仕方にテーブルマナーなど、ある程度のことは教育されている。
 お箸の躾では、夕食の時間になって食卓につくと目の前に小皿が2つとお箸が一膳置かれているのだが、左の小皿は空で、右の小皿には大豆が十数粒ある。
 食事にありつくには、まず右の小皿の大豆を全て左の小皿に移さなければならなかった。
 当然手を使うことや落とすことは許されず、子供は小さな手でお箸を持ち一粒ずつ慎重に白い粒を右から左へと運ぶのだ。
 ようやく「課題」を合格した頃には空腹などは忘れていて、食事をとる気にもならないのである。

 普段の食事で注意されていたのはお箸の持ち方と三角食べである。
 特に三角食べには厳しく、1つのお皿にしか手をつけていないのが目に留まると
 「そればっかり食べるんじゃないよ」
 と咎められたものである。
 三角食べをしないとお行儀が悪いそうだが、屁理屈が得意な私は、そもそも1人分の食事に対して同時に幾つもお皿を出すのはおそらく日本の和食か韓国料理くらいなのではないか、それ以外の国はどうするんだと思ってしまう。
 中華料理であれば大皿の料理をそれぞれが取り分けるようになっているし、コースであれば一品ずつ給仕される。
 インド料理もナンと一緒に3つ4つの小さなカップのようなものがあるが、それらは全て大きなお盆の上に載って出されるのである。
 世界で三角食べをする人種は数少ないのではないだろうか。