私は横断歩道以外の道を渡ることができない人間だ。
 「横断歩道しか渡れない病」、「横断歩道依存症」あるいは「横断歩道愛好家」である。
 上京して住んだ先の近所が歩行者天国のような商店街だったので横断歩道以外の道を横切ることができるようにはなったが、それでもやはり極力横断歩道のある道以外は渡りたくないと思っている。
 横断歩道のルールに律儀に従う人は日本では一定数いるかもしれないが、私もその一人であり、規律やマナーを守る歩行者でありたいと思っている。
 横断歩道のないところは基本的に渡らない。
 横断歩道の信号が点滅したら渡らない。
 横断歩道を渡るときは必ず「右・左・右」と確認する。
 これが私の心がけである。
 幼稚園や小学校で交通安全教室があるが、そういった教室を受けてからずっと、このポリシーが私の中で生き続けている。
 ここまでする理由はただ一つ、もし自分が轢かれた時に落ち込まなくて済むようにするためである。
 横断歩道を正しく渡っているだけでも事故に遭う確率は下がるかもしれないが、全ては万が一轢かれた時の自分の気持ちのためなのである。
 轢かれないに越すことはないのだが、世の中では交差点事故や信号無視による事故が起こっている。
 運転手は何かの病気や睡眠不足で意識を失っていたかもしれないし、飲酒運転かもしれないし、自暴自棄かもしれないし、サイコパスかもしれないが、人を轢いてしまった以上は、運転手に大きな責任がかかってしまう。
 しかし、世間で起こる事故には、
 「そうは言っても、これは歩行者にも責任があるだろう」
 というものもある。