家に楽器があれば、多くの子供はそれに触れたがるだろう。
 楽器を模した玩具やトイピアノが流通しているこの世の中、本物の楽器があればそれに興味を持つ子供は少なくないはずで、私もその一人であった。
 大きな楽器を目の前に椅子の上にちょこんと座り、小さな指で一生懸命に鍵盤を押すと、音が鳴る。
 他のところを触ってみると、さっきとは違う音がする。
 自分の手で音を作り出す感覚を覚えると、それが楽しくなる。
 私はそうやって幼少の頃から楽器や音楽に触れてきた。
 ピアノに触れていたこともさることながら、私の場合は、出先や店先で流れている音楽に合わせて踊っていたという。
 踊るというよりは体を動かしているという方が正確かもしれないが、例えば、大手家電量販店で放送されていたテーマソングに合わせて踊っていたことがあったらしい。
 これは私自身薄らと記憶にあって、軽快なリズムと盛大なファンファーレのようなトランペットの音に体が反応したのではないかと思う。
 幼稚園に入る頃には国内楽器メーカーが運営する音楽教室に通い、楽譜を読めるようになるための学習を意味する「ソルフェージュ」の基礎を学ぶことになる。
 私はその流れで自然とピアノを習うようになり、小学校三年の辺りまでその音楽教室の上級クラスや個人でピアノの先生に師事していた。
 このピアノ期間で一応人前で演奏できる程度の実力は付いたのだが、それ以後全く練習しなかったので、今ではせいぜい弾けて基礎練習、かえるの歌ならどんと来いというレベルである。