先進的な部分も多かったが所詮は田舎の学校で、おまけに進学が前提で文武両道でいえば「文」に大いに力を入れるほうの組だったので風紀には一段と厳しく、学校の指定外の服装をしていると、その服とは惜しくもさようならということになっていた。
 それで自然と「ジャージの人」が誕生するのだが、何故私だけがそう呼ばれたのかは今も不明である。
 廊下に出れば「あ、ジャージの人だ」と言われるのが日常で、彼らは本人に聞こえないように配慮していただいていたのかもしれないが、彼らの大きな声は本人の耳にしっかりと届いていた。
 その廊下は教室とはまるで逆の灼熱のようで、移動教室やご不浄のために廊下に出るとあまりの暑さにクラッとくるし、反対に教室に戻ると冷たい風が吹いてきて頭がキーンとする。
 まるで冬と夏が同時にあるような、南極と赤道を瞬時に行き来しているような状態である。私はこの温度差で体調を崩し、しばしば授業中にこっそりと頭痛薬を飲んでいた。

 夏は何かと不便なことが多いが、良いこともある。
 例えば夜空に打ち上がる花火、俄雨(にわかあめ)、アイスクリーム。
 花火は見ようと思えばいつでも見られるような気はするが、やはり夏祭りの楽しげな雰囲気の中で見るのが一番風情(ふぜい)がある気がするし、さっと降って通り過ぎてゆく俄雨も少しの雨宿りのあとに虹が待っていることがある。
 そして何より暑い中頬張るアイスクリームが一年の中で最高に美味しいアイスクリームではないだろうか。
 無論冷え性の私は体を冷やさないようにアイスクリームは食べず、気温に関わらず温かいものを飲み常温のものを食べているが。