校舎の中で一番寒いのは教室で、壁にコントロールパネルがあったものの設定温度が事務の方で固定されているので教室から設定を変えることはできず、せめてもの対策で席替えをして冷房のよく当たる席に当たった時に暑がりの人に席を譲るというのが講じられたが、教室はどこにいてもしっかりと冷えているのでジャージを着ていても寒さに震えた日もあった。
 それでもジャージを着ているとやはり腕や首にエアコンの風が直接当たるのを防いでくれるので多少なりとも効果はあったとみて、高校の三年間は夏服に衣替えをするのと一緒にジャージも持ってきて、登校してから下校前までジャージを着ていた。
 高校の同期で私の夏のブラウス姿を見た人は多くないかもしれない。
 しかし、制服にジャージというのもどうも格好が悪い見た目ではないだろうか。
 最近は体操着にスポーツブランドのデザインを採用している学校もありジャージはダサいといった印象も払拭(ふっしょく)されつつあるかもしれないが、やはり高校生とは背伸びしたいもの、折角の制服なのだからできることならフーディーやパーカー、カーディガンで可愛らしくしたいのが本音だろう。
 「ジャージの人」は制服のコーディネートなどは微塵(みじん)も気にせず防寒さえできれば十分だという怠惰(たいだ)から生まれた人間だが、七月の初め、同じ教室に防寒として清楚な白いカーディガンを羽織ってきた女子生徒がいた。
 それを見た私は、あれはいけないぞと思った。
 決して「ジャージの人」の体裁(ていさい)のためなどといった陳腐(ちんぷ)な理由ではない。
 案の定、彼女の白いカーディガンは担任に見つかって
 「寒いならジャージを着てなさい」
 と没収されていった。