狂った隣人たち

くるみの視界の端にうつった上から下へと落下していく黒い物体。


それがなんなのか理解する前に、心臓が止まってしまったかと感じるくらいに驚いた。


恐る恐る振り向いてみると、その物体がゆっくりと起き上がるところだった。


「母さん……」


祐次が震える声で呟く。


落下してきた黒い物体。


それは祐次の母親だったのだ。


腰の辺りまでしかない低い手すりを越えて、ベランダから落ちてきた。


そして立ち上がり、よろよろと玄関へ向かって歩き始めていた。


「母さん!!」


祐次はカバンを投げ出して駆け出した。


くるみも慌ててその後をついていく。


祐次の母親の服はあちこち破れていて血まみれた。


右の足首はあらぬ方向を向いているのに、本人は気がついていない様子で普通の歩こうとしている。


「なにしてるんだよ母さん!!」


しかし母親は答えない。


「祐次、どうしてお母さんこんなにボロボロなの?」