翌日。咲桜は白い封筒と念の為の診断書や処方箋を持って警察署へ向かった。清士に付いて来てもらおうかと悩んだが、何がともあれこの時代に戸籍のない人なので、面倒がないように1人で歩いて行った。警察署の中は白い壁と床が少し眩しくて、警察署であるのはともかく、いかにも役所というような病院というような、殺伐とした雰囲気があった。咲桜は窓口で要件を伝える。

「こんにちは、警視庁中央警察署の寺田です。ストーカーの相談ですね……」

咲桜より少し年上に見える女性警官は、クリップボードに挟まれた書類を見ながら椅子に座った。

「まずは、ご相談者さん……あなたについてお伺いしたいので、ちょっとこの紙のこの欄を埋めてもらえますか」

咲桜は渡された紙に名前や住所、どんな被害があったかを記していく。

「あの……これ、証拠というか、相手から送られてきたものとか診断書とかなんですけど」

警官はそれらを受け取り、コピーを取るために部屋を出た。しばらくして、警官が「証拠品」を手に戻ってくる。

「えーと、大戸咲桜さんですね。大学2年生で20歳。今月から被害に遭っている、と……」

咲桜は読み上げられる用紙の内容を聴きながら、ひとつひとつ確認するように頷く。

「今は同居されている方がいるんですね。ご家族ですか?それとも知人の方とか……もしよければ同居されている方について詳しく教えていただけませんか」

咲桜はドキッとした。清士のことをどう説明すべきだろうか。名前を出したり、下手に親戚などど言ってしまうと面倒なことになりかねない。目の前に出されているお茶を口に含んで、ゴクリと飲み込んだ。知人か友人か。ここで「実は付き合ってて〜同棲してるんです」なんて言ってしまえば、白い封筒の中に入っていた手紙の中の「浮気」を認めることになってしまうかもしれない。いや、そもそも大翔が一方的に別れを告げて出ていったのであって、もう付き合ってないんだから浮気も何もない。張り詰めるような空気と警官の視線で拍動が大きくなる。だんだん息が苦しくなって、動悸がしてくる。

「……す、すみません、ちょっと薬を」
息苦しさに耐えかねて薬を飲んだ咲桜は、何度か少し深めの呼吸をして、話し始めた。

「ルームメートです。ストーカー……いや、彼と別れたのが半年前で、先月までは一人暮らしだったんですけど、今月、たまたま行き場を失った人に出会って1日だけ家に泊めようと思ったんですけど、成り行きで同居するような形になって……。ルームメートでもいいし、間借り人でも同居人でもなんでもいいですけど。家族とかじゃなくて、知り合いというか他人というか」