清士と咲桜は図書館に入った。清士は法律のコーナーへ、咲桜は物理のコーナーへ向かう。

清士は咲桜から聞いた「日本国憲法」の名前を頼りに本を探したり、六法全書を読んだりして2023年の日本の姿を知ることにした。読み進めていると、清士の時代の日本は帝政で、軍隊があってというような国だったが、咲桜の言う通り「日本国憲法」は全く違う法律だった。もはや国ごと変わってしまったのではないかというほどだった。読み進めるごとによく知らない単語にも遭遇し、辞書を引きながらひとつひとつ、言葉の意味を知っていった。

一方の咲桜も、清士と出会ってから今までに起きたことや清士のタイムトラベルの経緯について整理したり、仮定を立てたりした。そしてたくさんの科学誌を読み、これまで学んだり研究したりしたタイムトラベルの事例と清士の事例を比べながら、彼に聞くべきことを探していた。未来から過去にタイムトラベルする形で未来人が現代に来ることはよくあるが、過去の人が未来にやってくるのはそう多くないことだった。まだ清士から詳しく話を聞いていないだけあって、彼が望んでタイムトラベルしたのか、それとも望んではいなかったのか、そもそも彼は本当にタイムトラベラーなのか、根拠を見つけるのに必死になった。咲桜はやることがある程度終わったところで、清士にいつごろ帰るか聞こうかと思い、スマホを出した。

(あ……あの人、スマホ持ってないか……)

咲桜はスマホやパソコンをバッグにしまい、本を全て返した。ペンケースから出した付箋にメッセージを書く。

『何時ごろ帰る?』

そのまま付箋を持って、清士の座っている席に貼る。清士は法律を読み終わって暇していたのか新聞を読んでいたが、その付箋に気づいて立ち上がり、新聞を元の場所に戻して図書館の外に向かった。

「法律は読めた?」

「読めたよ、おかげさまで。大戸さんも(はかど)ったかい」

清士は固まった体をほぐすように軽く伸びをした。

「うん、結構できたかな……あ、そうだ。このまま帰るのもなんだか物足りないし、皇居の周りを散歩してみない?外苑とか、公園とか」

咲桜は、時代の変化に驚いてばかりの清士に何か昔とそう大きく変わっていないところも見せてあげたいと思った。

「皇居というと……宮城(きゅうじょう)のことか。皇族方がお住まいになられているところだね。散策できるなら、ぜひ行ってみたいね」