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明治45年。


それはこの街にとって特別な年だった。


『今年の雨乞いの儀式は盛大なものにしましょうよ』


街の長へそう声をかけたのは妻だった。


妻も長もこの街で生まれ、一歩も外へ出て暮らすことなくこの街に尽くしてきた。


雨が振らず困っている農民たちを助けるため、雨乞いのイケニエを考えついたのは長の父親だった。


その父親は3年前に他界し、それ以降は今の長がすべてをまとめていた。


『今年で10年目になるのか』


考え深げに呟く。


『そうですよ。きっとみんな楽しみにしています』


イケニエを捧げると恐ろしいことを企んでいるとは思えない明るい声だ。


何かを得るためにはなにかを犠牲にする。