「山口奈緒さん、それなら奈緒ちゃんって呼んでもいいかしら?」

アラフォーとは思えないほど若々しく美しい女性だ。
海の恋人としてエステを欠かさず、高級化粧品を使い手荒れを気にして一切の家事をしなかった。
それはあたかも夫である社長の為と言いながら本当は若い海とのバランスを考えていたんだろう。

奈緒ちゃん・・・
石井由貴もそんな風に言ってたっけ。

「はい、義母様とお呼びするにはお若くて綺麗なのでお名前で呼ばせていただいてもいいですか?」
前回は初めは義母様と呼んでいたが、弥生が嫌がり名前で呼ぶことを強要された。だから、今回は先手を打ってこちらから提案しておいた。

「もちろんよ、そう言ってもらえて嬉しいわ」

「では弥生さんと呼ばせていただきますね」

社長と海は穏やかに私たちを見つめていた。
「奈緒、俺たちが住む方の家を案内するよ」

そう言って立ち上がる時、椅子を引き手を差し伸べる海の手を掴む時、目の端で弥生を捕らえる。
弥生の目にはハッキリと嫉妬の色が見えた。

「ありがとう海」

「奈緒ちゃんは海くんのことを海って呼んでいるのね」

「海くん?」


海は少し決まり悪そうな表情をしていると、社長が「弥生は昔から海智を甘やかしていたから」とフォローを入れる。
社長のセリフは前回と一緒だ。

「そうなんですね、さすがにわたしは年上の海には“くん”をつけるのはおかしいですよね」
ふふふ
と、マウントをとってくる弥生に無邪気さをアピールしつつ、”あなた”は年上ね。と暗に伝えると悔しそうに表情がゆがんだ。

楽しい

案内をしてもらった海智の”家”はあまり生活感がなくあの日の景色とはかなり違っていた。

それもそうだ。
この家に入ってから一緒に家具を揃えて家庭を形作っていったから。
でも、前回二人で買わなかったものもあった。

「広くて素敵、色々な部屋を覗いてもいい?」

「もちろんだよ、ここは二人の家になるんだから」

海との生活、そして永遠を思い出す。

キッチンやバスルーム、そしてベッドルームに行くと、最後の日に目が覚めたあのベッドが置かれていた。
今ならわかる、私が来る前は弥生と海が愛し合っていたベッドだ。いや、今も愛し合っている。もしかすると、私がこの家に入った後もこのベッドでしていたのかもしれない、そしてもしかしたら昨夜もここで二人は・・・

気持ち悪い

背後からおもむろに抱きしめられた。
「疲れてない?ここで少し休もうか?」

海はベッドに視線をむける。


「この後は式場を見に行くんでしょ、用事を先に済ませましょう」

海はくくっと笑いながら
「奈緒は時々、俺よりもお姉さんに感じるよ。了解、じゃ行こうか」


あのベッドは替えよう。