8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

「ああ。俺も参加していた東方諸国との戦争で命を落としたそうだ。ジャネットは戦場にまできたそうだぞ」
「……元侯爵令嬢が戦場に? それは、かなり心配されていたのでしょうね」
「ああ。だから、憎まれているのならばわかるのだがな。自分で言うのもなんだが、ジャネットにはひどいことをしただろうし、父上がそそのかしたにしてもかかわりあいたくないものじゃないか?」
「そうですね……」

 フィオナは考え込む。例えば、まだオスニエルに対して恋情があるのならば、やってきた機会を逃すようなことはしないかもしれない。ただ、気になることもある。

「時を戻す前の歓迎会のように、香水を使って皆のいらだちを煽り、私を追い出すことはできると思います。けれど、その香水は、広まってしまえば回収することは難しいでしょう? 後になってから、自分の開発したものを、危険なものだから使用しないようにって言えます? そうであれば、危険を知っていて人々に配布した方が正妃にふさわしいのか?と思われるに決まっています」
「なるほど」

 オスニエルは、その可能性に初めて気づいたかのように、頷いた。
 どうやら彼の感覚も相当におかしい。たしかに、正妃になるために毒薬まで使ったジェマ侯爵令嬢など、この国には物騒な感覚の持ち主が多いから慣れてしまったのかもしれないが。

「それに、ジャネット様とふたりでいると、ジェマ様の時にはあった敵意が感じられないのです。羨望めいたものはないこともないですけれど」

 そこが一番わからないところなのだ。彼女は王太子妃になりたかったのだろうか。だからフィオナの真似をして、香水を流行らせ、人心を取り込もうとしている? だけど、単純にそうだと、フィオナは納得できなかった。

「アイラが見たという、人の影も気になりますしね」
「影?」
「あの子、幽霊が見えるようなのです」
「は?」

 次々出てくる新事実に、オスニエルは混乱しているようだ。
 フィオナも混乱はしている。はっきりしないジャネットの目的。アイラが見たというジャネットについた影。彼女の敵意は、どこにあるのか。それとも最初から敵意などないのか。
 彼女の目的がはっきりしない今は、むしろ泳がせたほうがいいような気もする。