8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

  *  *  *

 後宮の部屋に戻り、ドルフが時を動かし始めた。途端に、何事もなかったように、物音が響いてくる。

「ふう。戻ってきたわね」

 疲れ切ったようにソファに座るフィオナに、ドルフが耳をぴくぴくとさせて扉のほうを見る。

『休んでいる暇はなさそうだぞ』

 ドルフの言う通り、すぐにオスニエルがやってきた。リーフェを見るなり笑顔を見せる。

「お、リーフェが戻ってきたのか?」
『オスニエルだー! 久しぶり!』

 じゃれつくリーフェを、オスニエルはなんだかんだとあやしている。意外と相性がいいのかもしれない。
 ひとしきりかまわれて満足したリーフェが、オスニエルから離れたところで、フィオナは切り出した。

「オスニエル様にお願いがあります。こちらの香水について、効能……というか、成分なんかを調べていただきたいのです。この花と、香水の成分が合致するのかも」

 小さな香水瓶と、紫色の花を見せられ、オスニエルは食い入るように見た。

「ジャネットからもらったのか?」
「ええ、香水のほうは。この香りが精神に作用しているかどうかは、そういった研究施設で調べればわかることですし、結果さえ出てしまえば、販売の差し止めも可能です。この花は、先ほどドルフに連れて行ってもらって、ロイヤルベリー領で見つけたものです。リーフェ曰く、この花の香りで、動物たちの気も荒くなっているそうです」
「わかった。これはロジャーに頼んでおく」

 ロジャーならば安心だ。細やかに気が付く彼ならば、ジャネットに気づかれる前にそれをやり遂げてくれるだろう。
 フィオナはほっとして、ソファの背もたれに体を預けた。なんだか一気に疲れてしまった。

「それにしても、ジャネット様の目的はなんなのでしょう」
「正妃になることなのかと思って、ロジャーに調べさせた。だが、あいつの兄のロイヤルべリー公爵は野心がない男でな。とくに公爵家から強い申し出があったわけではなさそうだ」
「そうなのですか」
「それに、ジャネットと夫のブレストン伯爵子息は、仲はよかったそうだ。今も、命日にはかかさず墓を参るそうだし」
「そうなのですか?」