8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

「ジャネット様」
「こんにちは。ご家族でお散歩ですか?」

 彼女はにっこりと微笑み、近づいてくる。香りがふわりと広がって、フィオナは少し息苦しさを感じた。
 アイラは怖いのか、フィオナを見上げ、抱っことねだった。
 そこに、ローランドが「私ではだめですか?」と言って手を差し出すと、アイラは「ローラン」と手を伸ばし、彼に抱き上げてもらった。

 ジャネットはそれを静かに眺め、扇で口元を隠した。

「……いいわね。かわいらしい子供たち。私にも、子供がいればよかったのに」

 ジャネットが目を伏せて言う。伯爵との結婚期間に、子をなすことはなかったのだろう。公爵家に戻ったのも、そういう事情があったのかもしれない。

「ねぇ、フィオナ様。私、本当にあなたがうらやましいのです。大国の王太子を夫にし、子供にも恵まれ、事業も成功させているんですもの。どうやったらあなたのようになれるのかしら」

 昨日の行動を見ていれば、ジャネットはフィオナに悪意はあるのだろう。陥れようと思っているのかもしれない。しかし、いざ相対すると、フィオナは彼女にそこまで悪い印象も恐怖も感じない。

(むしろ、はっきり口にしているのよね。うらやましい、とか)

 フィオナに直接反感を買うような真似をすることが、どうにも納得がいかない。
 例えばフィオナがオスニエルに言いつければ、ジャネットだって立場が悪くなることもあるだろうに。

(自分が犯人だということも、隠していないような気がする。……なにを考えているのだろう。ちゃんと話してみたほうがいいのかもしれない) 

 フィオナは、ジャネットと向き合うことを決めた。怖いと逃げていてもなんにもならないのだ。恐怖心が湧くのは、正体がわからないから。だったらその正体を、暴いていけばいい。
 子供たちをエリオットとローランドに任せ、フィオナはジャネットを伴い、一歩先を歩き始めた。

「……私が望んでいたのは、ただ、この国で居場所を作ることだけでしたわ。もとは敵国の姫ですもの。ここに来た当初は、後宮でおとなしくしていることしかできませんでした」

 ジャネットの瞼がピクリと動く。興味をひかれたように、「それで?」と続きを促された。