翌日から、フィオナは精力的に動いた。
ジャネットの目的はわからないままだが、彼女の香水が、人の苛立ちや怒りを増幅させているのは間違いない。おそらくお茶会で広めているのだろうと、フィオナは昼間、できるだけ後宮から出ることにした。
「おさんぽ?」
「ええ。アイラ、今日は怖くない?」
アイラは先日から城の方角に妙に恐怖を感じていた。両手をアイラとオリバーとつないでいるのだが、彼女はしっかりとフィオナの手を握って離さない。
「ちょっと、よくなった。でも、まだいやって」
「……誰かが嫌って言っているの?」
「うん。やめろって。でも、きょうは、ちがうみたい」
先日はオリバーを間にはさんでいたら、アイラの見えたものが見えたのだ。
またやってみようかと思ったが、アイラがしがみつくようにしているので、手を離すのは気が引けた。
そのまま三人とポリーとシンディとで散歩していると、エリオットとローランドがやってくる。
「エリオット。ちょうどよかった。話があったの」
フィオナは、香りに酔った状態の人間を覚醒させる薬を作れないかと相談してみた。
「うーん。頼んではみます。できるかどうかはまだ別ですけど」
「お願い。できればあなたが入寮するまでにお願いできる?」
「ええ」
エリオットがにっこりと請け負うと、オリバーはエリオットに手を伸ばす。
「エリ!」
「やあ、オリバー。元気かい?」
オリバーはエリオットのことが好きなようで、見かけるとすぐ抱っこをねだる。フィオナが意外に感じたのは、エリオットが軽々と彼を抱き上げることだ。
会わなくなったのが、線が細く、まだ少年の名残を残す年齢だったからかもしれないが、エリオットからは小さな少年という印象が抜けないのだ。だが、体つきを見れば、もうすっかり大人のようになっているのだなと思う。
「かーたま。あそこ、いる」
アイラが言った。フィオナが視線を向けた先には、ジャネットがいた。
やはり、アイラが見ているものはジャネットに関係があるのだ。



