8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

『とにかくお前たちは戻れ』
「ええ。後で話しましょう」

 ホワイティとドルフをバルコニーに残し、オスニエル、エリオット、フィオナの三人は、そろって中に戻る。香水の匂いはずいぶん飛んでいて、呼吸も楽にできた。

「皆さん、よろしくお願いいたします」

 ちょうど、ジャネットが挨拶を終えたところだ。フィオナとオスニエルを見つけたのか、不思議そうにこちらを見る。彼女の記憶では、先ほどまで王族の席に並んでいたのだから、疑問に思って当然ではある。
 やがて楽団による音楽が鳴りだし、室内は自由な交流が始まった。

「私、彼女と話してくるわ」
「大丈夫か?」
「ホストとして当然の役目をするだけよ」

 フィオナは早足でジャネットのもとに近寄る。周囲には伯爵以上の貴族令嬢もいて、フィオナを見るとぎこちなく笑みを浮かべた。

「ジャネット様、今宵は楽しんでくださいね」
「フィオナ様、……ありがとうございます」

 にこやかな会話が始まると、それを見ていた貴族令嬢たちも倣って笑顔になる。
 先ほどとは違い、どの人間も体面を保つことを忘れてはいないようだ。

(とりあえず、今度は大丈夫そうね)

 香水の香りが飛んだ室内は、暴走するほど苛立つ者もおらず、夜会は三時間ほどで、円満に幕を閉じたのだった。