8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2

「フィオナ様!」

 しかし、先にフィオナの腕をとったのは、ローランドだった。

「ここにいては危険です。俺と逃げましょう」
「ちょ、待ってよ、ローランド!」

 うしろからぐいぐいと引っ張られ、周囲の人間は、「フィオナ妃が逃げるぞ」と騒ぎ立て始めた。
 まったくもっておかしい。なにをしたわけでもないのに、フィオナが悪いことになっているのが不思議だ。まるで、謎の力が働いているような強引さがある。

 それに、ローランドはエリオットの護衛なのだから、彼と離れるなんてあり得ない。
 それを指摘しようとしたタイミングで、人の群れを押しのけて追いついてきたオスニエルが、ローランドの肩をつかんだ。

「フィオナを放せ」

 しかし、ローランドは全くひるまない。オスニエルを睨み、フィオナを背中のほうに押しやる。

「お離しください。フィオナ様を不幸にする男には、渡せません」
「お前は自分がしていることが分かっているのか。俺の妻を返せ」

 なおも抵抗するローランドに、オスニエルは足を捌いて転ばせた。倒れ込む瞬間、みぞおちのあたりに一発入れて、気絶させる。

「護衛騎士にしちゃ、ずいぶん隙があるじゃないか」

 抱き寄せられ、フィオナは彼を見上げる。

「オスニエル様。これ」
「ああ、なにかがおかしい」

 ローランドは、自らの感情優先で動くような男ではない。それがこのような自分本位な行動に出たのだ。絶対におかしい。

 波のようにどんどん高まっていく悪意。これは誰が、もたらしたものなのか。
 嫌な想像に、気が焦る。
 自分の気持ちを制御することに長けているはずの貴族が、みんな洗脳でもされているかのように、攻撃的になっている。

「みんな止めるのだ」

 国王の凛とした声がする。フィオナはほっとしてそちらを見たが、彼の表情を見てぞっとした。嫌悪感丸出しのその視線は、オスニエルの腕に抱かれているフィオナに、まっすぐに注がれている。