たしかにそうだ。傷つけられたのは、ジャネットの方だろう。格下の伯爵家に嫁いだのも、オスニエルとの縁談が破談になったせいで、悪評が付いたからかもしれない。

(そうよね。きっと苦労されたんだわ。ここにきてようやくチャンスが巡って来たと考えるなら、彼女だってもう手放したくはないはず)

 フィオナは言葉が見つからなかった。
 頭では理解しているのだ。やがてこの大国を治めるオスニエルには、少しでも味方が多い方がいい。フィオナの母国は聖獣の加護を持つとはいえ、それは国を守るために使われるもので、外圧をかけるような類のものではない。

 フィオナがオスニエルのためにできたことはせいぜい、個人的に孤児院事業で名前を広め、平民や商人の味方を作ったことくらいで、貴族への影響力はあまりない。
 ジャネットが側妃になれば、その点をうまく補ってくれるのだろう。

「でもね、私はあなたのこと、気に入っているのよ」

 イザベラは、フィオナの髪飾りを指でチョンと触る。

「歓迎会の日は、お揃いでつけましょうか。私に似合うようなものを作ってくれる?」
「……王妃様」
「ドレスは濃紺にするつもりなの。あなたは? どちらにも合う色で作ってちょうだいね」
「はい。できたらお持ちします」
「楽しみにしているわ」

 イザベラのひと言に勇気づけられ、フィオナは顔を上げる。

(そうよね。ジャネット様はジャネット様。私は私だわ。せめて自分らしさを無くさないようにしなくちゃ)